記憶喪失者の法益の保護というものがあるらしい……。

 喪失者を保護した場合、身元を調べて家族の元へ返すのが一般であるが、稀に喪失者の身元が全く判明しない場合がある。このような場合、一時的に生活保護を受ける事によって治療を行うが、長期間の記憶の回復不良、身元不明な場合は家庭裁判所に就籍許可申立を行い、仮名での戸籍を作ることができるようだ……。

 

 ある日の朝――

 

 目覚めと共に隣を見ると、そこには小柄な少女が眠っていた。

 昨日の記憶を探ってみても、眼前の少女との出会いなどなかったはずだ。

 俺は訳がわからず、とにかく少女の頬を軽く叩いて起こす。

 

「ん~……痛いわねぇ……何なのよもぉ……」

 

 ――目覚めた少女には過去の記憶が無かった――

 

 これは優しく保護するしかない!

 俺は医者の息子で紳士なのだ。

 決して相手が小さくてロリなのにちょっとツン○レっぽいとか、そんな事は一切関係ないっ!

 だが、一応保身のためにも、念押しで新たな記憶を擦り込んでおくか……。

 

 ……………………

 …………

 ……

 

「うおぉぉっ! も、もう止めてくれえぇぇっ!?」

 

「うるさいわねっ! さっさと腰を振ってわたしをイカせなさいよっ!!」

 

「はぁ、はぁ……ダメだ……俺イキそうだぁ……最高にイッちまいそうだぜぇっ!!」

 

 痺れそうな快感と締め付けに、俺の肉棒が喜びの咆哮をあげる。

 このままでは少女の中に白痕を刻んでしまう!

 でも、たまにはMも良いかもしれない。

 俺が新たな快感に目覚めた瞬間――

 

「坊ちゃま、田淵ですけど……」

 

 ガチャッと我が家の執事、田淵十蔵汰56歳が入ってくる。

 快感の目覚めを邪魔するというのか、田淵っ!!

 俺の邪魔をするヤツは執事だろうが鉄拳制裁だ!!

 

「…………ちゃま」

 

「坊ちゃま」

 

「ハッ! 田淵か……」

 

「夜分遅くまで勉学に励まれるのも宜しいですが、寝る時はベッドがよろしいかと」

 

「分かっている……だが、次の模試は三番以内に入りたいからな」

 

 俺の言葉に感動したのか、田淵は目じりを押さえながら部屋から出て行った。

 どうやら擦り込みに使えそうなネタを調べていたら、そのまま妄想しながら眠ってしまったようだ。

 

「はぁ……正直、模試なんかより記憶喪失少女が欲しいよなあ……」

 

 手に入る訳が無い。

 現実的ツッコミを自分に浴びせながら、俺は医大の過去問を再開しだした。

 

『95式  欲望ばかりが募り続けてしまう』

 

 

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