『俺の性旬は戻らない……』

 

 

 ある日の放課後――

 

 

「俺の……俺のせいじゃないからな……」

 

 視線の先には、一人の人間がグッたりと眠るように倒れている。

 

 

 あの時の五分前――

 

 

 俺は部活中の少女を屋上へ向かう階段の踊り場に連れ出した。

 放課後という事もあって、人気は薄い。

 

「あの……こんな所に連れてこられても困るんですけど……」

 

 俺は決意を胸に、勢いよく少女に抱きついた。

 

「きゃっ! な、何するんですか!!?」

 

「ごめん……ちょっとの間だけ我慢してくれっ」

 

 

 あの時の三分前――

 

 

 暴れて逃げようとする少女を力任せに抱きついて押さえながら、片手で威力を強化したコルク式の銃を尻ポケットから取り出す。

そして至近距離から少女のこめかみに向かってコルクを発射する。

 

「ぐぅっ!?」

 

 痛みのあまり、少女の眉間にシワが走る。

 

 

 あの時の一分前――

 

 

 俺が持っている医学書調べでは、至近距離からこめかみに強い衝撃を与えると、少しの間だけ記憶を飛ばす事ができるらしいく、その間にビタミンB1を急激に激減させる即効性の薬を飲ませれば、確実に記憶を喪失させる事ができるはずだ。

 

 あとは裏サイトで手に入れた薬を飲ませれば――

 

 

 あの時の八秒前――

 

 

「痛いわね、バカッ!!」

 

「えっ!?」

 

 彼女は俺の拘束をふりほどいて逃げようとした――

 

「きあぁぁぁっ!!」

 

 

 そしてあの時――

 

 

「ぐぅっ…………」

 

 視線の先には、階段から落ちた一人の少女が、グッたりと眠るように倒れている。

 

「…………」

 

 死んだのか……?

 俺のせいなのか?

 

「お、俺の……俺のせいじゃないからな……」

 

 息をしているのか……もはや確かめる勇気すらない。

 

「う、うわあぁぁぁぁっ!!!?」

 

 俺は恐怖のあまり少女を置き去りにして階段を駆け下り、廊下へと出た瞬間――

 

「痛っ!」

 

「っ!?」

 

 突如一人の男子学生とぶつかる。同い年くらいの学生は派手に尻餅をついた。

 

 しまった! 顔を見られた!?

 俺はとにかく、掴まりたくない一身で学園から逃げ出した。

 

 ……………………

 ………………

 …………

 

 ――その後、少女がどうなったのか、俺は知らない。

 

 ただ、一つだけわかっていることがある――

 顔を見られていたら、俺は罪人確定で刑務所行きだ。

 

 だからって……もうどこにも行くことができない。

 

 結局俺は、自分がしでかしてしまった罪の大きさに絶えられず……記憶ではなく……自分自身をこの世から消したという事だけだ。

 

-END-

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